わずかな砂が煌めきながら降って来る。
誰もいない蟻地獄の巣から抜け出せない。
もがいてもあがいても、
私の存在ごと砂と共に滑り落ちていく。
頭上の世界はよく晴れ、羽ばたく音と共に影が過ぎ去っていく。
ここで生きていくには時間だけがあまりにも渺茫としている。
何もない
誰もいない
未来もない
過去だけがある。
過去だけがさらに深奥へ引きずり込もうとする。
その先には涅色の穴が開いている。
まだそこにはいけない。
まだ私は執着している。
誰かが引き上げてくれるのではないかと淡い期待を抱いて、
頭では理解している。
その手を掴み続けなくてはいけなかった。
振り払ってはいけなかった。
そして、
同時に誰もが自力で成し得られるわけではないという事も思い知っ
その手に縋るのはあまりにも惨めだったから。
一度落ちたこの巣は深くて孤独そのものだ。
けれど居心地の良さもある。
晴れた朝の光が砂埃に反射して、立ち上るように輝く様も
赤や橙、紫、
迫り来るように莫大な数の星がそれぞれ瞬いている様も
あてもなくそれらを眺めて時間だけが過ぎていく。
動いているものを見ると今が存在しているように感じる。
過去に呑まれなくて済む。
私の傍らには涅色の穴が開いている。
まだそこにはいけない。
また私は執着している。
誰かがこの窮屈な世界を壊してくれたらと願いながら
そう思う事さえも許されない。
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